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『他人(ひと)の本棚を見てみたい。』OLD FACTORY BOOKS店主・助野彰昭さん(後編)

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本棚をのぞくと、その人の成り立ちが見えてくる――。

海南市黒江の旧田島うるし工場で古書店『OLD FACTORY BOOKS』を営む助野彰昭(すけのてるあき)さんの本棚後編。彼の人生に影響を与えた本とは?

12万円で世界を歩く』(下川 裕治 著/朝日新聞社)



助野
71歳で、現役のバックパッカー・下川裕治さんの旅行記です。この方の旅のスタイルはできるだけ安宿に泊まり、安い交通手段を用いることを貫いています。足から得られるものこそが自分の体に染み込んでくるものということだと思うんです。

自分もバックパッカーで2年間ぐらい世界各地を旅行していたのですが、ある時、バックパックに入れていたパソコンが中国で盗まれたことがありました。でもデジタルに接続できなくなったおかげで、旅の面白みが増したような気がしました。自分が余計なものを省き、旅に向き合っているような思いを感じましたね。

――助野さんは新婚旅行時に、世界50カ国以上バックパッカーとして旅をしたんですよね。

助野
過去に新聞記者さんに「正確に教えて」と、たずねられて数えると49カ国でした(笑)

256歳の時、アメリカに2カ月ぐらい1人で滞在していたのですが、72時間ほどバスで移動したりとか、ヒッチハイクで京都から長崎行ったりとか、そういう過酷な旅の方が今でも濃厚に思い出されます。

骨身に染みるような思い出というのは、できるだけお金をかけない…もちろん、かけたいのですが、でもお金をかけない方が味わえる旅の楽しさはたくさんあるんだというのが根本的にあります。

この本は、著者である下川さんが12万円を握りしめて旅ができるかという企画です。本の中で下川さんも言っていますが、当時は、雑誌がよく売れていた時代で取材費がふんだんに使えた時代なんですよ。でも下川さんには予算をつけてくれなかった。

それは限られた予算の中でいかに旅を楽しめるか、それを打ち出したかったのだと思います。この本との出会いは僕がバックパッカーとして旅に出る前、学生時代でした。だから勢いがあったというか。

実際に海外を2年間旅行して、世界遺産などをひと通り見学した後、人が作った文化遺産よりも自然遺産の方に惹かれましたし、市井の人々と交わる方が、旅の面白さ、醍醐味が増したのが実感として強烈に覚えています。自分の経験を踏まえて、この本を信頼し、今もなお心に刺さっています。

――OLD FACTORY BOOKSの選書についても、やはり海外に関する書籍が多いのですか?

助野
この海外にあるような建物の魅力に惹かれてやって来たので、建物に合う本、マッチする本というのが選書の基本です。



基本的には自分の好み、海外の匂いがするラインナップを心がけています。アメリカだけではありません。私がオーストラリアでワーキングホリデーとして10カ国くらいの人たちと一緒に働いていた頃、人種も言葉も違う人たちと一緒にいました。インド、フランスなどとても居心地が良かったです。そういうミクスチャーな雰囲気が好きなので、選書のメインは旅ですね。



妻が絵本作家というのもあり、絵本も置いています。そうげん堂に来てくれるお客さんや家族連れが上がってきてくれると、「自分は本を読まないけど、子どもには買ってあげたい」という親御さんも多いです。

先ほども話しましたが、ヴィレッジヴァンガードにとても影響されてるので、音楽や映画などのカルチャー系の本も置いています。実数はわかりませんが、店頭には3000冊は並んでいると思います。



『日本の小さな本屋さん(和氣 正幸 著/X-Knowledge(エクスナレッジ・ストア)』



助野
2
冊は結構決まっていましたが、3冊目をなかなか選びきれませんでした。たくさん候補はありましたが、20207月の開業以降、最も読んでいた本です。全国の独立系書店がたくさん紹介されています。

うちの書店自体が、自分の作品であり表現なのですが、旧田島うるし工場で書店を開業する行為そのものがカウンターカルチャーと評されるようになりました。



この建物はもともと解体できずに後ろ向きに現存しているのですが、建物に魅力を感じて営業していることは、新しければいいとか、便利な方がいいなどという社会の風潮に抗いたい思いが根底にあります。この書店で自分の満足度を高めていくことが、うん、自分の喜びです。

あらためて、数少ない常連さんに支えられているなと感じています。好きで始めた商売で自分の欲望だけを満たしている感じですが、それでも喜んでくれたり、面白がってくれたりする人がいるとうれしいですね。


――最後に助野さんにとって、読書とは?

助野
読書とは生きること、ニアリーイコールみたいな存在、自分の生き方の鍵です。あらゆる経験や思い出など、いろいろものが自分の人生に前向きに影響を及ぼし、変化させてくれる存在ですね。

助野彰昭さん

 

OLD FACTORY BOOKS
海南市船尾166 旧田島うるし工場内
tel.09058919092

guesthouse GOOD DAY
海南市日方1519-3 令和荘201
https://www.airbnb.com/I/UNWmRHHc

JR海南駅から徒歩5分。レトロ喫茶の真上にあるゲストハウス。本は「世界を旅する」をテーマに選書している。