SOPHIAのボーカル・松岡充さんと、劇団鹿殺しの代表で作・演出を手掛ける丸尾丸一郎さんのユニット「VOL.M」が9年ぶりに再始動。2017年に上演したVOL.M旗揚げ公演『不届者』を土台に各ジャンルの一線で活躍するアーティストたちが集結し、音楽劇『UME-今昔不届者歌劇-(うめ-こんじゃくふとどきものかげき-)』としてよみがえる。
『UME-今昔不届者歌劇-(うめ-こんじゃくふとどきものかげき-)』あらすじ
轢き逃げ事件で殺された妻が残した生命保険。
しかし、受取人は書き換えられており、男は保険金詐欺を疑ってキャバクラに潜入する。
謎の保険屋によって手渡された「復讐のシナリオ」には、徳川幕府八代将軍、徳川吉宗の半生が描かれていた。
名君と呼ばれる吉宗には黒い噂が付き纏う。
地方藩主の四男だった吉宗だが、将軍候補が次々と謎の死を遂げ、将軍に登り詰めたのだ。
青梅のごとき月が輝く夜、吉宗に魂を売った男の復讐劇が始まる。
徳川吉宗の虚像と、保険金詐欺事件の実像が交錯する、傑作スリラーが音楽劇となって甦る。
松岡さんはひき逃げ事件で妻を殺され、保険金詐欺事件に巻き込まれていく梅本と、江戸時代に徳川吉宗と名乗り、毒殺を繰り返して八代将軍にのし上がる新之助の二役だ。今回は3月7日(土)に和歌山公演として紀南文化会館(田辺市)でファイナルを迎える。なぜ和歌山で公演が行われるのか。そのあたりの理由も含めて、松岡さんと丸尾さんに話しを聞いた。

――まず、『不届者』を音楽劇『UME –今昔不届者歌劇–』にするのに9年かかったのはなぜでしょうか。
丸尾「松岡さんとの作品作りは、妥協を許さないし、自分の中で『不届者』は成し遂げたという達成感はあったんです。ただ、もっとこうできた、脚本に妥協はなかったか、松岡さんにこんな演技してもらえたら良かったと思うようになってきて。でも、音楽劇にするための自信がまだなかったんですね。松岡さんに曲を歌ってもらうのは自分の中ではすごく特別なことだから。でもこの9年の間にさまざまな経験をして、今だったら松岡さんに自信を持って歌ってもらえる舞台を作っていけるんじゃないかと。僕からお声がけしました」
松岡「2017年の『不届者』には丸君(丸尾)の頭の中で張り巡らされたストーリー展開があり、それを回収していくゲーム性というか、すごくエンターテインメント性のクオリティが高い作品だったんです。僕らも必死になって表現しきった。でもせっかく作品が生まれ変わるなら、観た後に「OK、分かりやすかった。さぁ、何食べに行く?」という程度の作品になるのは嫌だったんです。「何これ?」と考えてほしいんです。今の彼と僕なら、作品としてのクオリティの高さや奥深さ、立体感を新たに創れると思ったんですよね」
――もう稽古が始まっているそうですが、お二人でどのようにクリエイトされているのですか。
丸尾「松岡さんは、セリフやあらすじ、歌詞、メロディなどあらゆることに関して、妥協を許さない“もう一人の自分”が意見を言ってくれている感じなんですよ。しかも的確で、僕が「もうこれでいいや」って思っているかもしれないところを毎日突いてくれます。毎日大変だけど、すごくクリエーションしているなっていう感じです」

松岡「それが許されているのは丸君だから。僕は20年以上も舞台をやってきたけれど、垣根なく一つの作品を創っていくのが演劇だと思うんです。枠を飛び越えなければ、それ以上のものはできない。チケットを購入して、演者やクリエイターたちだけを信じて集まってくれる人たちに対して、表現する側は可能性を最後まで追い求めて創らなければいけないと責任があると思うんですね。演劇業界の中には垣根みたいなものがある、と思っていて。それは音楽業界にもあるんですけど、ナンセンスだと思うんです。僕は劇団鹿殺しに出会った時に、その垣根を打破してくれる人たちかもしれないと衝撃を受けたんですよ。
丸君が“もう一人の自分”と言ってくれたけど、僕もそういう感覚。古いものや体制をぶち壊してくれる人っていう認識です。昨年、鹿殺しがイギリス公演をしたこともすごく背中を押されましたし、ずいぶん前に知り合ったんだけど、共に意識しながら闘ってきた。だからこそ、思うことはちゃんと伝えるようにしないと悔いが残る。丸君はちゃんと聞いてくれるし、思ったことも言ってくれる。そうじゃなきゃ、魂を揺さぶる作品は生まれないと思うんですよね。時にはお互い言っていることが少しかみ合わない時もあるけど、ビビらずに創り上げていく。まさに今、稽古場で突き詰めて、エネルギーを沸々と二人で固めて、それをキャストやスタッフ、その先にいる観客に伝える道筋を創っている感じですね」
丸尾「僕は演出家で予算も知っているから、予算で妥協しているというか、できないだろうと思っちゃうんですよね。でも、今朝も松岡さんに「こうできたら面白いよね」と言われてドキッとしました。本当にもう一人の自分が言ってくる感じ。そうだよな、やったらやれるかな? 舞台監督さんや衣装さんと相談してみよう。自分は芸術に対して、松岡さんのようにこんなにも身を捧げているのか。松岡さんのほうが作品のことをもっと考えてくれているんじゃないか。そう思うと悔しいですね。すごく信頼できるパートナーでいつも背中を押されています。うーん、早く僕も松岡さんに何か悔しいと思わせなきゃ(笑)」
松岡「そりゃ、僕も思う時がありますよ。丸君の舞台を見ていても、ほかの人のライブでも悔しいと思うことは多々ある。でもそれって、究極のラブコールみたいな感じ。いいジェラシーなんですよね。この作品に描かれているジェラシーとはまた違うものなんですけど」
――「不届者」の時に、丸尾さんは「松岡さんの暗い月のような部分を引き出したい」と言われていました。梅本と吉宗はかなりダークなキャラクターです。

丸尾「松岡さんは夢や希望をたくさん歌ってきた。大阪でバンドを始めて東京に行って、こうして何十年以上も第一線で活動されている。ということは、野心やしたたかさ、暗いマグマのような部分がないとあそこまで成功できないと思うんですよ(笑)。あくまで僕の想像で、こんな面もあるんじゃないかというのを描いたのが始まりです」
松岡「僕は丸君を信じているし、本当に天才だと思っています。演劇で僕の本質的な部分をわざわざ引っ張り出そうっていう人はなかなかいないから。どろどろ、沸々とした部分は、SOPHIAの楽曲の中でも何曲かありますが、実はそんな曲達が僕らを突き動かす何かになっている。その根源となるものが似ているし、人間として男として、表現者として、同じアンテナを持っているというか。“絶対これは誰もキャッチできへんやろ”という僕の些細な感情や信号が、なんか丸君には届くみたいな不思議な感覚なんですよね」
丸尾「アンテナを探してくださっているから。「俺にもこんな事があってね」と、よく昔話をしてくださるんですが、松岡さんの中で常に梅本を探しているから、シンクロする部分が重なっていくんですよ」
――現代の梅本と江戸の新之助の物語が、最初はパラレルワールドのように進みますが、少しずつ重なっていきます。どういう意識で演じられているのですか。
松岡「初演の時は、二人は同じということを目指していましたが、同じの定義が変わってきたなというのは、9年経ってありますね。僕は全キャストが梅本、吉宗の中にいる人格なんじゃないかと。観客からすると、どう見ていいのかと思うかもしれないけど、そこは演出家の腕で(笑)。なぜ、この二つの時代で見せるべきなのか、そこを突き詰めようと今、稽古しています」
丸尾「うんうん」
松岡「丸君も自分で生み出した作品やけど、もう一度、教わっていく作業を今、しているんじゃないかな」
丸尾「吉宗はなぜ将軍になりたかったのか。ただ、人を殺したくて将軍になるわけじゃない。大義名分というか、自分の中の正義があったんじゃないかという話を松岡さんとしていて。それなら江戸時代の庶民の貧しさを描いた方がいいよねと、本読みでまた気づきがある。それを繰り返していくという。音楽も含めて全部のセクションに対して、松岡さんは疑ってくれるんです」
――台本には、「歌って怪物だから。頭も体も全部乗っ取られて、喉を振り絞っても人に伝わんなくて、怪物は俺の中で暴れ出す」というセリフが出てきますが、松岡さんからそう感じたのでしょうか。

丸尾「いえいえ、僕の中で、やっぱり表現することはこういうことだという感覚があって、それをぶつけているというか。きっと松岡さんにも、そんな要素があるはずだと思って書いている。梅本にとって、音楽は大きな要素なんですよね。そこがもちろん、松岡さんの人生にも少しシンクロしていたら嬉しいんですけど」
松岡「めちゃくちゃシンクロしていますね。丸君は“僕なら、もっと松岡充を描ける”と言ってくれたんですよ。俺のこの恐怖を、なんでこの人は文字にできるの? 絶対、言いたくないことをセリフにしてくるから、本当に怖いですよ(笑)」
――また、「熱演はいいけど、暴走するのは脚本家として困ります」というセリフもあって、松岡さんが初演で暴走されたのかと(笑)
丸尾「アハハハッ、それはないです。僕は演出家としては、暴走してほしいんです。僕が好きな演劇は、むしろ脚本家の存在がない作品。役者は自由に暴れまわってほしいですし、セリフの言い方を変えるのも全然OKです」
松岡「丸君の脚本は、全然、暴走する理由がないんですよ。暴走しなくても描かれている脚本・演出ってあるじゃないですか。相反するものに言われがちですけど、僕は同じだと思っています」
――ほかの作品では暴走されることはあるのですか。
松岡「それは描かれてない側から見たら暴走に見えるのかもしれないですけど、僕からしたら暴走じゃない。通常で当然のこと。真っすぐ行って、水たまりがあったらよけるよね(笑)。そんな感覚ですよ」
――なるほど(笑)。今回、楽曲はどのような感じでしょうか。
丸尾「津軽三味線とパーカッションを使います。ドラムじゃなくて、パーカッションというのは松岡さんの初演からのアイデアで、三味線はもともと僕が持っていたアイデア。この作品を海外でもやりたいから、日本文化を感じてもらいつつ、松岡さんらしいロックな楽曲もあるんです」
松岡「ヒップホップ的なものもある。ただ、作品全体としてとっちらからないようにまとまりを引き算で計算しています」
――松岡さんがこの作品のために新曲を書き下ろすと聞きました。
丸尾「それを僕はオープニングとラストに使いたいなと思っています」

松岡「まだ完成してないんです。稽古に入って、気持ちが育たないとたどり着けないので、ギリギリのところで楽曲制作に入ります。どんな感じになるんでしょう(笑)」
丸尾「すごく難しいんですよ。復讐する男だけど、ポジティブなメッセージも残さないと。このテーマ曲にかかっているので、めちゃくちゃ期待しています」
――今回、珍しく和歌山公演も開催されます。
丸尾「吉宗が紀州藩主だったので、初演の時も和歌山でやりたいと言っていたんですが、実現できなかった。今回、ようやく念願が叶いました」
松岡「和歌山でファイナルを迎えるので、特別に限定イベントも開催します。過疎化が進む所が増える中、自治体がエンターテインメントで盛り上げたいと。とても素晴らしい取り組みだと感銘を受けて。劇場の中に入った瞬間に、物語に入り込めるような演出を丸君と考えています」
――最後にメッセージをお願いします。
丸尾「松岡さんは自分の作品が果たして正しいのか、目指したいものなのか疑うことを忘れない。楽な方を選ばず、疑い続けなきゃいけないんだと思い出させてくれる。千秋楽が終わるまで、それを続けていって、松岡さんが思う以上のものを自分の中で返していきたい。必ずいいものが作れると思います。僕らがあがいて作ったものを見ていただけたらうれしいです」
松岡「演劇という世界に生きるつもりはなかったんですが、もう20数年経ちますが、鴻上尚史さんに演劇とは何かを一から教えてもらい、可能性の塊だと感じた。でも落とし穴もある。1カ月稽古して、客席を埋めて、はい、次に行こう、そんな風にルーティーン的な考えで演劇をやるのはナンセンスだと思っています。少なくとも創っている側は「時代を変えてやるんだ」「見えなかった人に見せる、聞こえなかった人に聞こえるように」とそんな強い想いで創っていくべきだと僕は思ってます。そして今こそ、本物の日本の演劇をやるんだと決意しています。デカいこと言ってんぞ、大風呂敷広げたなと思っていただいていい。這いつくばって、『U M E』を創っていきたいと思います」
<取材・文 米満ゆう子>

チケット予約など詳しくは下記まで
VOL.M『UME-今昔不届者歌劇-(うめ-こんじゃくふとどきものかげき-)』
https://shika564.com/ume/
大阪公演
日時 2026年2⽉27⽇(⾦)~3月1日(日・祝)
会場 COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
和歌山公演
日時 2026年3⽉7⽇(土)
会場 紀南文化会館 大ホール
※16:30~の回は大千穐楽スペシャルカーテンコールあり!
脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
振付:辻本知彦
主演:松岡充
出演:街裏ぴんく、阪本奨悟、雷太
Beverly、⼤平峻也、山田ジェームス武、藍染カレン、橘輝
仲⽥博喜
丸尾丸⼀郎
プロフィール

松岡 充
1971年 大阪府出身。1995年にSOPHIAとしてメジャーデビュー。現在はSOPHIA、MICHAELのヴォーカル、そして俳優に加え、マルチメディアなクリエイティブアーティストとしても活躍。近年は、ミュージカル『LAZARUS –ラザルス–』(主演)、『キルバーン』(主演)など話題作に連続主演し、さらに音楽分野ではデビュー30周年を記念し「SOPHIA」と「SIAM SHADE」のメンバー4人が結成したスペシャルユニット「SIAM SOPHIA」を結成し、大きな反響を呼んだ。

丸尾 丸一郎
大阪府出身。作家、演出家、俳優。2000年に劇団鹿殺しを旗揚げし、家族や仲間・夢と現実といった普遍的なテーマを、等身大の言葉と叙情的な歌詞を用いて、独特の世界観で描き出す。代表作「スーパースター」は 第 55 回岸田國士戯曲賞最終候補に選出され、また、脚本を手がけた映画「Gメン」(監督 瑠東東一郎 / 主演 岸優太)では2023年 第97回キネマ旬報ベスト・テン 読者選出日本映画賞で1位に選ばれた。
